I Don't Care About You !

ニヒリズムとナルシズムの狭間で


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2013/11/17 / 11:12

研修生活も漸く3週間が過ぎ、残り約1か月になった。

早く現場復帰したい反面、時間的制約は色々あるものの、基本的には自分のことだけやってりゃいい、言い換えれば自分以外に負う責任の殆ど無い学生生活が楽なのも事実。

そんな生活にあって、やはり実務の現場から離れて規則正しい生活をしているせいもあるのだろうが、普段は遅読の自分がこの3週間余で7冊の本を読んでいる事に驚いた次第。以下、先週に引き続いて面白かった物などを御裾分け。

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ロバート・ブートナー「孤児たちの軍隊 ガニメデへの飛翔」

まぁ普通、SF好きであれば帯に「宇宙の戦士」なんて言葉が書いてあれば取り敢えず、手に取ってみるだろう(笑)クラシックなSF者にとっての「『火星シリーズ』『キャプテン・フューチャー』の再来!」、ヒロイック・ファンタジー好きにとっての「『コナン』を髣髴とさせる云々」に等しい効果のある「釣り文句」だ。勿論、こっちもガキじゃないから「そんな都合がよくあの名作群が現代に甦えるわけないだろ」とハナッから疑ってページを繰っているわけであるが。

そんなわけで、粗筋。

西暦2040年、木星の衛星ガニメデに前進基地を築いた異星人からの攻撃を受け、人類は滅亡の危機に瀕していた。この危機を回避すべく、ガニメデ派遣軍が結成された。その中核は、敵の無差別攻撃により両親を失った一万人の兵士たち。彼らは強大な敵に敢然と立ち向かう!そのリアルな戦闘描写と戦争哲学で、アフガニスタン派遣米国軍兵士のあいだでボロボロになるまでまわし読みされ、大評判となった21世紀版『宇宙の戦士』

ハインライン「宇宙の戦士」は、ただ単に「ガンダムの原型になったパワードスーツを着て異星人と闘う話」ではない。SFの姿を借りてはいるが、ハインラインが(若者や子供達に)説きたかったのは「道徳感」であったはずだ。当時(第2次大戦後)、「民主主義」を謳歌する陰で広がりつつあった社会におけるモラルの低下、権利と自由のみを主張し義務と責任を放棄したがる風潮、犯罪の低年齢化、貧富の差という問題にどう向き合うか、ということが話の骨幹であったはずだ。

此処でハインラインが言っているのは、或る意味で日本の左翼が最も忌み嫌い、ヒステリーを起こすであろうケネディの言葉

「同胞であるアメリカ市民の皆さん、国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか。」

という理念を焼きなおしている、と言ってもいいかもしれない。

この思想に賛同できるか否か、というのは問題ではない。自分で感じればいいだけの話だ。これは後年「SFの姿を借りてヴェトナム戦争を描いた」と言われるジョン・ホールドマン「終わりなき戦い」についても同様である。だからこそこの2作は今もって読み継がれる名作となり得たのだ。

翻って本書。そういう思想的な要素は皆無である。解説には「米軍のアフガン派遣兵士の間でボロボロになるまで回し読みされた」とあるが別に現在の中東情勢やアメリカの位置付けを描いているわけでもなんでもない。あくまでも「そういう読者も居ましたよ」という極一部の話でしかない。

全体の描写としては、ほぼ通常兵器で異星人と戦う、という設定も「まぁ突然、攻めてこられりゃそうならざるを得ないよな」と納得は行く。あと「おきまり」の新兵訓練場面にしても全て想定の範囲内で収まってしまう。これは著者が大学で博士号を取得した後、士官として入隊している・・・要するに本当の意味での「下っ端アーミーライフ」を経験していないからだろう。おまけに職域が「情報士官」なので実際の現場に出た経験は殆ど無いのかもしれない。であるから現場経験の長いジャック・キャンベル(「彷徨える艦隊」シリーズ等)とは軍の描き方に雲泥の差がある。幾ら味方がほぼ壊滅的打撃を受けたとはいえ戦場任官で少将になってしまうという設定も普通では考えられない話である。

では何故、此処まで叩いてきて本書を取り上げたか、という事。それは以下の2点。

先ず、ガニメデへ出撃していく主人公の宇宙船に対し、新兵時代の訓練軍曹(鬼軍曹)が敬礼をして見送る場面。「宇宙の戦士」でもズィム軍曹も然りで、やはり軍隊を持っている国は下士官の描き方が実に上手い。陸軍の土台を固めているのは士官ではなく下士官であるという事が良く分かっている。そして下士官に対する尊敬の気持ちを忘れない。これは現代の日本人作家では絶対に描けないポイントだと思う。

あと(以下、ネタバレあり)ガニメデ降下艇の操縦をしていた女性士官プリシラ・オリビア・ハート大佐(プーさん)が着陸時に死ぬ場面。ガニメデの着陸地点の土壌が予想外に柔らかすぎ、先に降下した僚機が兵員を降ろす事も出来ず次々と沈んでいく(死んでいく)様を見たパイロットが身を賭して硬い地表まで機体を運んで胴体着陸をする描写を読んだとき、かつての空自機が落着の際、市街地を避けて河川敷まで持ちこたえパイロット2名が殉職した事故とオーバーラップしてしまった。綺麗事と言われようが何だろうが、やはり自分は急迫不正の場面においてどこまで自分を賭けられるか、という話には感動してしまう。

そんなこんなで21世紀版「宇宙の戦士」にはならないだろうが、興味のある方は是非に。

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