I Don't Care About You !

ニヒリズムとナルシズムの狭間で


Entries.

2013/05/09 / 21:45

連休中遊びすぎた挙句、体調崩して毎度の如く気管支炎&喘息である。肺活量が6000CC もあって肺だの気管支だのが弱いってのは性質の悪い冗談のような話である。

そんなわけで、ぼちぼち読み進めていた

   boox_bk-4480426256.jpg
本田靖春「疵 花形敬とその時代」

読了。

花形敬・・・安藤組の大幹部であり死後50年経った今でもステゴロ(素手の喧嘩)最強の男と謳われ、漫画「グラップラー刃牙」に登場する花山薫のモデルになったヤクザ者・・・といえばわかる人も多いだろう。ただしこの作品、花形敬の伝記ではない。副題にある「その時代」こそがメインであるので、純粋にヤクザの一代記を読みたかった人は肩透かしを食うかもしれない。

自分としてはまさに「その時代」の描写がとても面白かった。戦中~戦後にかけての世相を描いたもので、東京の山の手や下町を描いたものは幾らでもあるが、渋谷~世田谷という当時としては郊外、悪く言えば東京の「田舎」を描いた作品は殆ど無いのではないか、と思う。例えば、花形敬が通った千歳船橋の旧制中学における軍国教育の様子であるとか、地元農村の子供達と東京の中心部から移って来たサラリーマン(ホワイトカラー)の子供達の間に存在した差別/対立意識、その中から所謂「番町グループ」が作られ、近隣の学校を制圧して勢力を拡大し・・・という60年代、70年代の少年マンガにおける「学園モノ/番長モノ」の構図が既に戦中において出来上がっていたことが良く分かる。

因みに自分は中学~大学まで世田谷の学校に通っていたのだが、代々東京の四谷~新橋~銀座界隈に住んでいた親が「下北沢?あんなド田舎がねぇ」と笑っていた理由が本書を読んで今更のように良く分かった次第。また、自分が小田急線で通学していたのは所謂「校内暴力全盛時代」だったわけだが、花形敬が生きていた時代より数十年後さえ国士舘という校名は暴力と恐怖の大看板であり、「当時と同じだなぁ」というどうしようもない感想を持った。
そして本書の主人公である花形敬。

自分はこれまでも「自伝 安藤昇」を始めとした当時のヤクザ者/愚連隊絡みの書物を色々読んできたが、一様に感じる事は「あの時代であったが故に存在することが出来た人達」という一点に尽きる。例えば渋谷で乱暴狼藉の限りを尽くす台湾人、朝鮮人グループを叩くため、警察とGHQが半ば黙認する形で界隈の組織が集まって襲撃を行う件。米軍の横流し品である自動小銃や手榴弾まで装備したヤクザ組織、街における喧嘩など日常茶飯事という描写は現代では全く考えられない。今ではロクに喧嘩もした事の無いようなクソ未満のサラリーマンが酒の勢いで人様に喧嘩を売り、自分から仕掛けて来たくせに「俺に手を出したら暴行で訴えてやる!」等とデカい面をしている時代である。

つまり戦後の動乱期、言ってみれば「時代と時代の間隙」だったからこそ「愚連隊」も「ステゴロ」も生きる場所があった。街並みが整備され、法体系が確立する。それに伴って社会の構造も変化し、広域暴力団が次第に勢力を拡大してくるようになると愚連隊や個人は淘汰されていく。本書の中で「もし○○が生きていたら現代の暴力団勢力図は全く違うものになっていたかもしれない」という話が数か所で出て来るが、これは飽くまでも「そういう時代を共有した人による郷愁」であると自分は思う。外国人マフィアや小僧のギャングが幅を利かせ暴力団自体も「イオングループ化」しなくてはやっていけない現代において、旧態然とした愚連隊や個人の喧嘩師が突っ張って生きていく隙間など現代社会にはもう残されていないと思う。であるから花形敬は早すぎる死によって、そして安藤組はあの時代に解散したからこそ「伝説」となり得たのだと思う。

というわけで、現代の世相を鑑みたうえで紐解くとまた新たな刺激が生まれる本でもある。事実は小説よりも奇なり・・・しかし此処で語られている事の何処までが「事実」であるのか・・・等と言う野暮なことは考えてはいけない。伝説は、伝説であるからこそ刺激的なのだから。

刺激と言えば最後にひとつ。本書のタイトルにもなっており、花形敬のトレードマークともいわれる顔の疵が実は喧嘩ではなく、自傷であったという件は非常に興味深かった。外に向けてのみならず、自分自身の身体に対しても発露する暴力衝動というのは心理学的にはとても面白い題材なのではないか、と思う。自分はこのエピソードを読んで、能條純一の漫画「翔丸」を思い出してしまった。


スポンサーサイト

書籍 / TRACKBACK(0) / COMMENT(0) / PAGETOP

I Walk Like Jayne Mansfield / ホーム / 連休最終日


コメント:


コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する 


トラックバック:

ホーム