I Don't Care About You !

ニヒリズムとナルシズムの狭間で


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2013/01/20 / 21:49

今週アタマから読み始めた

 下層社会
紀田順一郎「東京の下層社会」

読了。

内容は、タイトルの通り・・・ではなくて

・・・ 駆け足の近代化と富国強兵を国是とする日本の近代は、必然的に社会経済的な弱者―極貧階層を生み出した。スラムの惨状、もらい子殺し、娼妓に対する恐るべき搾取、女工の凄惨な労働と虐待…。張りぼての繁栄の陰で、疎外され、忘れ去られた都市の下層民たちの実態を探り、いまなお日本人の意識の根底にある弱者への認識の未熟さと社会観のゆがみを焙り出す

・・・というもの。

扱われている時代は明治~戦前迄であるので21世紀に暮らす人達から見ればかなりの違和感があるだろう。

書かれているのは大まかに分けて、貧民窟(スラム)、女郎、女工の3つである。女郎と女工に関する悲話についてはこれまでに読んだ、或いは見た小説や映画、随筆等のからの予備知識があったので、失礼ながら「今更」感じいる部分は無かったが驚いたのは、スラムについて書かれた前半部分。

自分も、四谷鮫河橋と下谷万年町、そし芝新網町が「東京の3大スラム」であることは知っていたし、曙橋に住んでいた頃、ランニングで新宿通りの四谷2丁目の交差点を南側へ渡って坂を下り、中央線の高架下を抜け赤坂御用地の皇宮警察がある門前に出て来るコースを通った時、やたらと寺の多いその区域だけが他の地域とは違う空気を漂わせている事にすぐ、気が付いた。其処が「鮫河橋」と呼ばれた一帯であることを知ったのは後になってからだが。

そうしたスラムがほんの数十年前まで東京には点在していた。件の「3大スラム」までは行かずとも、

「あそこは悪い土地だから」

という言い方は親から当たり前のように聞いていた。テレビでも根津千駄木に住む某俳優が

「最近は下町ブームとかで、昔からの人達は住まないような場所を開発して新しい家が建っているが、そういう土地だという事を知らずに移り住んでくるのは新しく来た人たちだね」

という趣旨の発言をしていたが人口の流入の激しい東京では今や何処も彼処も・・・それこそ荒川区や葛飾区のような場末まで「下町」にされてしまっている現状ではかつて其処がどんな土地だったかという事など、興味を持って調べるか或いは臭いに敏感な人でないと気付かない時代になっているのだろう。

というわけで本書。

驚愕したのはスラムの食生活。主食が残飯であったという事は全く知らなかった。今では食堂で出た残飯は捨てられるか、畜産業者に払い下げられるかだが、当時は人間が食していた。それも野菜や果物などが腐って「キントン状」になったものまで食べていたという。軍の兵舎から残飯が出ないときは下水の排水口で網にかかった残飯を乾かして畜産業者に売るという。

居住地域の「木賃宿」は雑魚寝で窓が無く、強姦や近親相姦が極々当たり前に行われていたという事実。そんな劣悪な環境で衛生状態も栄養状態も悪ければ当然、結核、性病、皮膚病を始めとした病気が蔓延する。そうした人達がボロを纏い、彷徨い歩いている姿・・・DISCHARGE "Does The System Work" の歌詞

Men and women young and old Out on the streets homeless
In plastic bags they carry their homes Clothes in rags they walk the streets
In bins they search for the odd dog end The odd dog end and food
Does the system, does the system, does this system work

のままではないか。まさに「悪循環」としか言いようが無い。

そしてそんな惨状に対して政治は何ら救済策を取ろうとしない。社会からのドロップアウトは自己責任であるという考えが流布していた・・・という事実もあるのだろうが、産業が機械化し急速な近代化を歩み始めた国の現状は何処も似たり寄ったりではなかっただろうか、と思う。

そしてこのような劣悪な環境に身を置いていれば共産主義のような思想が「素晴らしい夢」のように思えても仕方ないのかもしれない。大切なのは、このような暗部の上に現代の繁栄があるという事実である。

あと池波正太郎の著作や「三丁目の夕日」などを読んだり見たりして「昔は良かった」「江戸情緒」「むかしの東京」に過大な憧れを抱くのはいいが、もう少し現実を知りなさいよ、と思う。

浅草駅前にある「神谷バー」の名物「電気ブラン」が元はといえば下谷万年町のスラムで仕事帰りの人力車夫が夕飯に残飯を食べた後、「どうしようもない現実を忘れるため感覚がマヒする強い酒が必要だったから」という理由でつくられたものだという事を知っている人など殆ど居ないに違いない。

何れにせよ、江戸の古地図を買い求めて街を歩くのもいいが、このような暗部に目を向けてこそ初めて都市というものの本当の顔が見えてくるのではないかと思う。

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